Story
2004/1 |
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甘酸っぱくて、元気が出たので、嬉しくなってれもんに声をかけたのだ。 そうするとれもんは私にかわいい赤いチューリップを渡してくれた。 れもんは花屋で働いていて、歳はおそらく5つは年下だろう。 「お客さま、またなにかお探しですか?」 まだあどけない少年のような笑顔でれもんは話かけてきた。 「あ、じゃあ、そのチューリップを」 家に帰るとてっちゃんが
「れもん」 KINA |
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Story
2004/1 |
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□ パンダが泣きながら僕の顔を見ている。 僕は涙が転がるその前にそっとハンカチをさし出した。 僕は夕暮れの時間に外に出た。 にらみをキッときかせて太陽をにらんだ。 今日この日が沈んだら、もう2003年の太陽はみれない。 昨日東京から田舎に帰る準備のため、旅行鞄に着替えを詰め込む間、 僕はまた今年は何を捨てていこうかと考えた。 毎年田舎に帰るのはこの正月ぐらいだけど、 そのときに僕は決まってやる儀式があった。 この一年で溜まった心の中のいらないものを一切捨てて帰るのだ。 だけど、それを捨てるにはひとつ道連れを作らなくてはならなかった。 僕の大事にしていたものを一緒に捨てなければその儀式は成立しないのだ。 そうしなくても、たとえば「深呼吸して大声で叫ぶ」とかいう手段でもそれは可能だったのかもしれない。 だけど19歳のときからやっているそれがいつの間にか決まりになった。 僕は部屋の周りを見渡す。 押入れの中にはこの頃忙しくて使うことのなくなったスキーウエアと、学生のときの教科書が乱雑にいれてある。 その片隅にこんな暗いところに入れて置かれながら、それでもめげず目を丸くし、きょとんとした顔で見つめているパンダのぬいぐるみがあった。 UFOキャッチャーで採ったものなんて大抵捨てて帰ったりするのだが、 なぜだかそいつは持って帰った。 机の上に飾るのも少しで飽きて、結局そいつは一週間ほど大事にされたあとで押入れ行きだった。 去年新築された実家は、こういうときにしか帰らないのに パンダが僕を見ながらくすっと笑った気がした。 明日は5日。今年始めのゴミの日です。 「はつ夢」 KINA |
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Story |
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「クリスマスの朝に見た夢」 | |||
■ あらまあ、こんなこともあるのかと、12月のカレンダーを横目で見ながら、鏡を覗き込んだ。 これはとある朝の出来事で、私にリボンが巻きついている。 それも赤いリボン。 驚いたので、きっとこれは夢なのだと、だけど楽しそうな夢だから、覚めないようにそっと頬を撫でた。 |
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あらあら、首の辺りには値札らしきものと、メッセージカードが付いていて、どうやら私は売り物らしい。 「クリスマスの朝に見た夢」 KINA |
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